Sketch #6
「札幌のすすきのでこの店は、場所と屋号と店主を変えながらもかれこれ50年近く、ヴィンテージオーディオでジャズを鳴らし、バーボンやスコッチといった酒を飲んでもらってきた。私自身、客から店主へと立場が変わっても、この店でジャズを聴きながら酒を飲んでいる。その杯を重ねながら、レコードから流れてくる演奏やミュージシャンのうんちくを語り、オーディオと酒についてもあれやこれやとずっとここで会話を楽しんできた。興に乗れば深酒し、他所の店に移って朝まで飲み明かす、なんて酒飲みの行動美?もそのままに、店も私もこの毎日を変えるつもりはない。ないのだけれど。。。悲しいことにすすきのが変わってきた。来店するお客さんに酒の杯を重ねる人が少なくなったし、音がジャンジャン鳴ってることに気づかないかのようにスマホばかり見ているから、会話の接ぎ穂を見つけるのも難しくなった。外を歩けば、古い味のある雑居ビルが次々と壊され、そこに建つのは観光客向けの洗練されたホテルばかりで、そこの帰り客目当てにランチ営業をする店も現れてきたから、私が朝まで飲んでフラフラ歩いていると、あちこちから奇妙なものでも視るような眼が飛んでくる始末! ここはすすきのなのに…この街は健全になってきたのかもしれない。観光客が昼間にも楽しめるようになってきたのだから。ただ、夜の街特有の怪しさや、にぎにぎしいネオンに彩られる艶っぽさの冴えないすすきのっていうのは、昔からの住人としては寂しい街に見えてしまうのだ。衰退しているとしか感じられないのだ。。。それでも、だ。そんな景色に変わりゆく街でこの店は、これからもお客さんにジャズを聴いて酒を飲んでもらいたい。演奏について、オーディオについて、酒についてまだまだ話してもらいたい。いつの日か、お客さんがこの店から、私の心がすすきのから、離れてしまうまでは。」
皆さんにとって、すすきのはどんな街ですか?
by ジャズバー エイティワン店主・白髭 |